popoのブログ

超短編(ショートショート)

ラーメン屋の先輩

「はい。お待たせ。」

ここは近所で有名なラーメン屋。

そして大好きだった先輩のラーメン屋。

「いただきます!」

ズルルゥッ…(うまっ!)

 

その夜、先輩の家にお邪魔した。

奥さんと子ども。

3人で暮らす小さなアパートだった。

少しお酒が入ったころ

「先輩なんか元気ないですね?」

「そうか。そんなこと…」

「実はね。チェーン展開の話がきてるの。」

歯切れの悪い先輩。

はっきりした口調の奥さん。

「先輩!いい話じゃないですか!?」

「バカ!俺にはもう家族がいんだ。

 昔みたいに無茶できないだろ。

 こいつら守らなきゃ」

その言葉に被せるように奥さんが言った。

「なに人のせいにしてんのよ!

 私は無茶しても頑張るあんたに惚れたんだよ。

 逃げんな!チャンスでしょ!

 俺のラーメンを1人でも多くの人に

 食べてもらうんだって。

 あん時のあんたはどこいったのよ。」

 

昔、先輩は俺たちを引っ張ってくれていた。

いくぞ!やるぞ!ついてこい!

が口ぐせかのように、俺たちを鼓舞してくれた。

その先輩が今は俯いている。

 

「しっかりしなよ!頑張んな!」

その言葉で先輩は何か感じたようだ。

「そうだな。やってみる。やってやろう!な!」

顔を上げた先輩は昔の表情だった。

「悪かった。ありがとう。

 ずっとついてきてくれよ。」

先輩は奥さんに言った。

奥さんは席を立ってキッチンに向かう。

「しょうがないから残りの人生

 一緒にいてやるよ。」

小さな声で呟く奥さんの目には

涙が浮かんでいた。

昔とはちょっと違う先輩だけど

何だかお似合いの二人がうらやましい。